美鈴の前に(ひざまず)いたリオネルは、顔を伏せたまま、彼には珍しく遠慮がちな様子でそう呟いた。

「 君は、伯爵が手当をしたと言ったが、3日後の舞踏会のこともある。……靴を変える必要があるかもしれない。確認させてくれ」

 伏せた顔を上げて、懇願するような目で自分を見つめるリオネルに、美鈴は黙って頷いた。

 そもそも、舞踏会の衣装の一式は、彼が見立ててくれたものだ。何とはなしに、彼には逆らえないような気がして美鈴はそっと靴を脱ぐと、おずおずと膝を伸ばし、彼の前に素足を(さら)した。

 リオネルは、小鳥を(てのひら)に乗せるように、優しく彼女の足を彼の大きな手で受け止めると、まだところどころ赤みが残る色白の小さな足を丹念(たんねん)に確認した。

 真剣な表情のリオネルに声をかけることもできず、美鈴は彼から顔を()らして、緊張から身体をこわばらせたままその時間を耐えようとした。

「……緊張しているな」

 美鈴のぎこちない動きを敏感に感じ取ったリオネルが美鈴の顔を見上げて言った。

「そ、それは、……当たり前でしょう、男性に、素足を見せるなんて……」

 そう切り返した美鈴だったが、その答えに『意外だ』といわんばかりに片眉を吊り上げて驚きを示したリオネルは、わざと意地悪な表情を作って口の端を上げた。

「アルノー伯爵……フェリクスはどうなんだ? 彼は、別邸では人払いをして召使いを置かないと聞いている、……変わり者だという噂だ」

 視線を美鈴のもう片方の足に移しながらリオネルはボソリと呟いた。

「……それは……しかたがないじゃない、伯爵は、親切で気さくな方で、それで……」

 リオネルに対して、なぜこんな弁解(べんかい)をしているのか。

 自分でもよくわからないまま、美鈴は必死にあの時の状況を説明しようとしたが、リオネルは拗ねた子供のような表情で、無言のまま美鈴の片足を下ろし、もう片方の足を手に乗せた。