その日、窓辺にやってきた早起き鳥の軽やかな鳴き声で美鈴は目を覚ました。

 早朝、日が昇ったばかりのこの時間帯は、社交界の習いで夜型の生活を余儀なくされる貴族社会に暮らす者にとってはまだ起き出すには早すぎる。

 カーテンの隙間から外を覗いてみると、頬白の雀ほどの大きさで翼と頭の色が青く腹の色が若草色の小鳥が、美鈴の部屋の窓枠にチョコンと止まってせわし気に首を動かしている。

 ……綺麗な鳥……色は全然違うけれど、雀みたい。自然が豊かな場所なら、日本にもこんな鳥がいるのかしら。

 小鳥を驚かさないよう、慎重に、そっとカーテンを引いた美鈴の動作を敏感に察知して、青い小鳥は窓から飛び去ってしまった。

 小鳥が飛び去った空を見上げると、白から青へ淡いグラデーションを描いた、水彩画を思わせる透明な夏空が広がっていた。

 窓を開けて早朝の涼やかな空気を部屋に入れ、刻々と変化していく空の色を眺めながら胸いっぱいに新鮮な空気を吸った後、美鈴は窓辺を離れてベッドの上に腰掛けた。

 吹き込む風を受けてフワリフワリと窓辺で舞い踊るレースのカーテンを無心に眺めていると、この世界にやって来てから、貴族令嬢として過ごした2か月間の出来事が次々と思い起されてくる。

 ここに来たばかりの頃は、朝目覚めるたびに自分がまだ夢の中にいるのではないかと疑った――「この世界」の方が、夢なのではないかと。

 しかし、何度朝を迎えても覚めることのない夢……今の彼女にとってこの世界がまぎれもない「現実」であることを悟ってからは、とにかくこの世界について夢中で調べ、令嬢としての礼儀作法を学んだ。

 ……たった一人 異世界に迷いこんでしまった、その心細さをどうにかして紛らわしたかったのかもしれない。