馬車がルクリュ子爵邸に到着し、御者が車寄せまで馬車で乗り入れると、リオネルは颯爽と馬車を降り、美鈴の側に向かって歩いてきた。

 てっきり、馬車を降りるのを手伝ってくれるものと思った美鈴が差し出した手を、リオネルはとらなかった。
 その代わりに、座席に座ったままの美鈴に覆いかぶさるようにして距離を詰め、至近距離で彼女の顔を見てニンマリと笑っている。

「……? きゃあっ!!」

「失礼!」

 そう言ったと同時にリオネルは、美鈴のひざ下に手を入れ、肩を支えて、軽々と彼女を抱え上げた。

「ちょっと……どうして……!?」

 慌てた美鈴がリオネルに食って掛かると、彼は抱き上げた美鈴の顔を覗き込んだ。

「足を、痛めているんだろう? 歩き方と靴の痛み具合ですぐ分かる……。さ、ここは俺に任せて、大人しくしていてくれ」

「そんな!……手当もしてもらったし、自分で歩けるわ。降ろして!」

 頬を赤らめてそう訴えた美鈴にリオネルが意外な反応を見せた。

「なに? まさか、フェリクスが……?」

 一瞬、眉を顰めて呟いたリオネルだったが、直ぐに美鈴に余裕しゃくしゃくの笑顔を向ける。

「それなら、なおさらだ! 俺も、君にいいところを見せたいんでね」

 そう宣言すると、リオネルは美鈴の身体をより強く抱き寄せ、ルクリュ邸の玄関に向かって堂々と歩き出した。