「どう!ご覧になって。リオネル様に見立てて頂いたドレスがやっと出来上がったのよ」

 その場でダンスのステップを踏むように、令嬢は優雅な所作でくるりと回ってみせた。

「とても、お似合いです。まるでバラのつぼみのように愛らしいお姿だ」

 女性を褒めるときはいつもそうなのだろう、リオネルはいつもの彼らしく、令嬢の可憐な姿に心からの賛辞を贈った。

 リオネルの称賛を受けて、バラ色の頬をさらに紅く染めて令嬢は俯いた。

「ドレスが仕上がった時のこの娘の喜びようといったら……。本当に、感謝していますのよ」

 何も言えなくなってしまった令嬢に代わって男爵夫人がリオネルに謝意を述べる。

「あの……リオネル様、ぜひ次は、リオネル様に夜会服のご相談をしたいの……!」

 おそらく、ありったけの勇気を振り絞ってそうきりだした令嬢を、男爵夫人がやんわりと制した。

「ネリー、リオネル様は素敵なご令嬢をお連れなのよ、こんなところで足止めをしてしまっては申し訳ないわ」

 母のその言葉に、今までリオネルしか映していなかった令嬢の瞳が美鈴に向けられる。
 
 いくら色恋沙汰に無縁だったとはいえ、美鈴は若く可愛らしい令嬢のリオネルへのひたむきな恋心を感じずにはいられなかった。

「いえ、私のことは、どうか気になさらずに……。リオネル、わたし、もう少し先へ歩いてみたいわ」

 午後の森はさんさんと差し込む木漏れ日で明るく、あちらこちらに貴族の令嬢や紳士の姿が見える。

 ……ここで、リオネルとこの可愛らしいお嬢さんの邪魔をするくらいなら、一人で少し散歩してきた方がいいわ。

 美鈴は、男爵夫人と令嬢に軽く挨拶をすると、一人で先に歩き出した。

「ミレイ!あまり、遠くへは行くな……!聞こえているか、ミレイ!」

 リオネルのやや慌てた声を背中に聞きながら、美鈴は森の中を足早に歩き出した。