返ってきたのは皮肉だったが、美鈴が口を開いたことに安堵したのだろうか。リオネルが片目を開けて美鈴を見た。

「君には……そう「聞こえる」かもしれないが、少なくとも俺はそう「思って」いる……」

 そう言うと同時にリオネルは美鈴に少年のような満面の笑顔を向けた。

「まあ、とにかく、そんなに緊張しなさんな。純粋に散歩を楽しもう」

 陽光の下、リオネルの瞳が明るいグリーンに輝いている。

 その瞳と裏表のない爽やかな笑顔が、頑なだった美鈴の心を揺さぶり、彼女はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 二人がぎこちない会話をしている間にも馬車は、パリスイの市街を大きく蛇行して流れるレーヌ川沿いに数キロにわたって横たわる森へと近づいていた。

「なんて、大きな森なの……!」

 パリスイのような大都会の市街地に、一日かけても全域を回りきれないような規模の森が存在するのを目の当たりにして、美鈴は素直に感嘆の声を上げた。

「そうだな、ブールルージュはパリスイ近郊ではヴァセルヌの次に大きな森だ」

 美しく整えられた男らしく太い眉の下、森の新緑の輝きをそのまま映したような瞳を細めて、リオネルが答えた。

「叔母上の言った通り。眩しいくらいの緑だ」

 ブールルージュには、主に貴族たちが住む高級住宅街のメインストリートから延びる、森を縦断し、いくつかの区画に分割する馬車道が整備されている。

 その馬車道を通り抜け、緑の生い茂る並木道の手前で、リオネルは御者に馬を停めさせ、ひらりと車から飛び降りた。

「さ、お手を、どうぞ……」

 優雅な足取りで美鈴の座席側に回ったリオネルは、真っすぐに美鈴の瞳を見つめながらその大きな手を差し出した。