二人がお茶を楽しんでいる最中、3日後の舞踏会で美鈴のエスコート役を務めるリオネルが、フラリとルクリュ家にやって来たのは午後3時をいくらか過ぎた頃だった。

 初めて会った時からリオネルに対して苦手意識を抱いている美鈴には全くありがたくない展開だった。

 むしろ、先日のドレスの最終調整の時、少なくとも舞踏会までは彼と顔を合わせずに済むことに心底ほっとしたくらいだったのに……。

 前触れもなくルクリュ家を訪問したリオネルは、当然のように夫人と美鈴の午後のひと時に同席し、子爵夫人と愉し気に世間話をしている。

 趣味と実益を兼ねて数々の洋服商と親しく付き合いがある彼らしく、偉丈夫というに相応しい彼の身体に完ぺきにフィットした仕立てのよいダークグレーのテールコートに縦じま模様がアクセントになった薄いグレーのジレを合わせている。
 
 夫人との会話中も絶え間なく自分に対して秋波のような視線を送ってくるリオネルが、美鈴は気になって仕方なかった。

「ここのところ、本当にいい天気だこと。ずっとこんな天気が続くとよいのだけど……」

 柔和な微笑みを浮かべながら、夫人がリオネルと美鈴のどちらに言うともなく言った。

「3日後の舞踏会の日は、間違いなく晴れると思いますよ」

 優雅な手つきで紅茶のカップを口元に運びながら、澄ました顔でにリオネルが夫人に答えた。

「ふふ、何かジンクスでもあるのかしら?雨の前触れなら知っているけれど……。猫が顔を洗う、ツバメが低く飛ぶ……」

 無邪気な少女のような表情で夫人が思いついたジンクスの数だけほっそりとした指を折る。

「俺がとびきり美しい女性をエスコートする日は、いつも必ず晴れるんですよ」

 そう言いながら、リオネルは美鈴に向かっていたずらっぽく片目を閉じて見せる。

「まあ、リオネルったら……!」

 夫の甥であり、親しく交流しているリオネルの軽口に子爵夫人はコロコロと無邪気に笑っている。

 当の美鈴は夫人の手前恥じらうフリで顔を伏せたものの、内心ではたった2か月前出会ったばかりのよくも知らない女によくもそんな甘ったるいセリフが吐けるものだと、益々リオネルに対する不信感を(つの)らせていた。