……まさか、こんなところで彼と再会することになるとは……!

 無造作に広げた上衣の上に横たわっているのは、あのブールルージュの森で出会った彼――フェリクス・ド・ アルノーその人だった。

 ゆるく結んだ真っすぐな長い亜麻色の髪はほどけて広がり、美しい流れをあちこちに作っている。

 これ以上は望めないというくらいに完璧な曲線を描く額から鼻梁、唇に続くライン。

 絹糸のような睫毛に彩られた目蓋はしっかりと閉じられており、身体の横に添えた腕にはまったく力がはいっている様子がない。

 まるで湖畔に置き去りにされた美しい人形のように――シンと静まり返った森の中、木漏れ日を浴びて横たわっている。

 そこに横たわっていたのがフェリクスであったことに安堵しながらも、そのあまりに無防備な姿に美鈴は首を傾げざるを得ない。

 名門貴族のアルノー伯爵家の子息がこんな田舎の湖のほとりで、供の者も連れないでひとりきり――。

 初めて出会った時の振る舞いやこの間の舞踏会の件といい、多少気ままなところがあるのは知ってはいたけれど……。

 一歩、二歩……足音をたてないよう、慎重に美鈴はフェリクスの横たわる水辺へ近づいてゆく。

 その間もフェリクスは指先ひとつ動かさず横たわったまま――微動だにしない。

 ……よほど深く眠っているのか、それとも……。

 ――生きている人間じゃないみたい……。