静まり返った森の中で自分の心臓が立てる音がやけに耳についた。

 湖を取り囲むように湖畔を一周する小路――といっても、それは整備されたものではなく獣道に毛が生えたようなものだった。

 その小路に沿ってそぞろ歩いていた美鈴の目に飛び込んできたもの……茂みの向こう、低木の枝が水辺に向かってしな垂れかかっているあたりにそれはあった。

 よく観察すると乗馬ブーツは使い込まれてよく磨かれ、上質の品であるように見受けられる。

 しみ一つない純白の乗馬ズボンを穿いた足はすんなりと長く伸びておりピクリとも動く気配がない。

 美鈴が今いる位置からでは茂みが邪魔をしてそれ以上のことをうかがい知ることはできなかった。

 ――どうしよう……関わり合いにならないほうがいいとは思うけど……。

 もし、事故か何かで身動きが取れない状態だとしたら……?

 近在の村の住民には、ルクリュ子爵家の一員として美鈴も世話になっている。

 美しい村に住む、心温かい人々――もし、そんな村人が窮地に陥っているのだとしたら?

 一旦、引き返そうと身をひるがえしかけた美鈴だったが、もう少しだけ様子をみることにしてそこに立ち止まった。

 ドクン、ドクンと心臓の音が一段と耳元に大きく聞こえてくる。

 意を決して茂みからソロソロと顔を出し、その先にあるものを見極めるべく目を凝らす――。

 ドクンッ!

 横たわっていた人物を見た瞬間、心臓がひときわ大きく飛び跳ねた。