「ええ、とても素敵なところですね。乗馬もできるなんて素敵! ぜひ、やってみたいわ」

 少しはしゃいだ様子で美鈴は子爵夫妻に向かって笑顔を向けた。

 ドパルデュー家のフィリップとのお見合い以来、ルクリュ夫妻、とりわけ子爵はどこか自分に対して気を遣っているように思われてならない。

 優しい夫妻の気遣いに少しの罪悪感を感じながら、美鈴はつとめて明るく振舞うようにしていた。

 婚活に失敗したことについて二人に申し訳ないと思うものの、心の奥底ではどこかホッとしている自分がいる。

 ――自分の、『気持ち』……

『自分の気持ちに素直になれ』

 そう彼女に言ったリオネルも今は旅の空の下、異国の地で存分に羽根を伸ばしていることだろう。

 ヴァカンスに出る前、美鈴の元に二通の手紙が届いた。

 一通は、無事、リタリア行きが許されたことを知らせる、フィリップからの手紙。

 もう一通は、一週間ほど前に旅立ったリオネルから、最初の訪問国に到着したという報せだった。

 製紙業が盛んだというその街で見つけた、レースのような切り絵細工が美しいしおりが一枚、同封されていた。

 そのしおりは、ヴァカンスに持ってきた読みかけの本の間に挟んである。

 リオネルからの手紙を開けた時に感じた胸の高鳴り。

 そしてしおりを見る度に胸の中に沸き起こってくる何とも言えない気持ち。

 別れ際、あんなことがあったから……?

 ふとした瞬間に軽く触れた熱っぽい唇の感触をまざまざと思い出してしまう。