真っ青な青空に、吹き渡る夏の風……。

 どこまでも続く、まっ平らな地平線。

 大小の森や広大な牧草地、畑が延々と続く大地に、ぽつりぽつりと点在する村々。

 先ほど通過した村の一つでは、小さな尖塔を戴いた教会を中心に木組みや石造り、レンガ造りの家が寄り添うように並んでいた。

 童話に出てくるような可愛らしい、宝石箱のような村……。

 まぶしい黄色のひまわりが背比べをし、青紫のラベンダーが優しく香る。

 秋の収穫を前に、豊かな実った麦の穂がさざ波のように風に吹かれては揺れる。

 目の前に広がる、絵画のように美しい田園風景を見つめながら、美鈴はほっと息を吐いた。

 ここは、フランツ王国北西部にあるルクリュ子爵家の領地。

 夏の間、美鈴はルクリュ子爵夫妻、ジャネットと一緒に子爵家の館にひと月ほど滞在することになっている。

 上流貴族の夏の過ごし方――いわゆる避暑のためのヴァカンスである。

「綺麗なところでしょう。 どう、ミレイ、気に入って?」

「近くに湖水もあるし、馬も何頭か用意しているから乗馬もできるぞ! 後で馬小屋を見に行くかい?」

 馬車での長旅が終わり、館の管理をしているジャネットの父母の挨拶を受けた後、美鈴とルクリュ子爵夫妻はほっと一息つきながらテラスでお茶を飲んでいた。