まるで子供のように無邪気にアイスに集中している彼女を、リオネルは目を細めて見つめている。

「……ミレイ、俺は少しの間旅に出る」

「……え?」

 アイスクリームを食べ終え、馬車が再びルクリュ家へ向かって走り出した時、リオネルは美鈴に打ち明けた。

「ヴァカンスと商用旅行を兼ねて、数か国を巡ってくる。ひと月ほどは留守にするつもりだ」

「そう……、それは……」

 この世界にやって来てから今までというもの、3日とリオネルと顔を合わせないことはなかった。

 特にこのところは舞踏会やお見合いの衣装合わせでずっと彼の世話になりっぱなしだったことに、美鈴は改めて思い至った。

「リオネル……、あの」

 こちらを見つめるヘーゼルグリーンの瞳がそっと優し気に細められる。

「色々と……ありがとう。舞踏会のことも、このドレスも……」

 ――素直に、心から感謝を伝えたいだけなのに。

 たどたどしく言葉を紡ぎながら、美鈴は自分が歯がゆくて仕方なかった。

「…貴方がいなかったら、どうなっていたか分からないわ。感謝しています、本当に……」

 リオネルの顔を見上げた美鈴の頬に、軽くリオネルの温かく大きな手が触れた。

「まるで、永の別れみたいだな。……俺はすぐに帰ってくる。君に会いに」

 そこまで言ってリオネルは、おや、という風に少々驚いたような表情を浮かべた。

「クリームが、ついてるぞ」

「えっ、どこに??」

 うっかりして、服にこぼしてしまったかと思った美鈴は、慌てて胸元を確認した。

「ちょっと待ってくれ、ちゃんと取ってやるから……」

 懐からハンカチを取り出したリオネルが美鈴の傍ににじり寄る。

「動かないで……目を瞑って」

 ……なんで、目を??

 そう思いながらも、美鈴は近づいてくるリオネルに気圧されて言われるままに目を閉じてしまう。

 その瞬間

 唇に弾力のある熱いものが触れた。

「……大丈夫、とれたぞ」

 ぺろりと自分の唇を舐めてみせながら、いたずらっ子そのものの笑顔でリオネルが笑った。