「奇遇ね。お散歩かしら?」

「まあ、そんなところだ。隣、座っても?」

「ええ、どうぞ」

 お見合いに失敗した今、気が抜けてリオネルに突っ張る気さえ失くしてしまったようだった。

「……お見合いは失敗よ。フィリップ様はリタリアに行くことになったわ」

「へえ……こんなにも魅力的な君を残して? 信じられないな」

 わざとらしく眉を上げて、リオネルは意外だという表情を浮かべて見せる。

「……で、君の『気持ち』は?」

 こころもち美鈴の方へ身を乗り出してリオネルは低い声で囁いた。

「よくわからないけど……。スッキリした気分よ。少し、残念な気もするけど……これで良かったんだって思える」

「世の中には、いろんな男がいるものだ。いろんな女がいるように」

 神妙な顔でリオネルは頷くと、おもむろに立ち上がり美鈴に向かって片手を差し出した。

「もう少し、寄り道しないか。執事には、俺が話をつけるから……」



 帰りの道すがら、リオネルは馬車をカフェの近くに停めさせ、召使いに二言三言言い聞かせた。

 カフェへ使い走りに遣った召使いが持ち帰ったのは、冷たいアイスクリーム。

「さ、召し上がれ」

 リオネルに勧められてそっと口をつけると、ひんやりとした感触とともに濃厚なヴァニラとほんのわずかなリキュールの香りが口の中に広がる。

「美味しい……!」

 ちょうど喉が渇いていたこともあり、冷たいアイスクリームの上品な甘さはたちまちのうちに美鈴を虜にした。

「気に入ってもらえてよかった」