美鈴はこの数日で頭の中に叩きこんだドパルデュー家とフィリップの情報と当人の印象を比較し、予想通りのフィリップの好人物ぶりに安堵した。

 フィリップの胸元を飾るジャボ(レースの胸飾り)の後ろに複雑な文様の縁取りに中央部にはバラの花が彫られた銀のロケットを発見した美鈴はさり気なくそれを話題にあげた。

「素敵なロケットですわね。複雑な文様が彫り込んであって……素晴らしいお品なのでは?」

 ドパルデュー家のフィリップの一風変わった趣味。

 彼が居城に彫金の師匠まで召し抱えて、余暇に金銀細工の加工にいそしんでいるという情報を美鈴はドパルデュー家の召使いを通して入手していた。

「こ……これですか?」

 召使いから得た情報によれば、フィリップはかなりの腕前の持ち主で、公にはされていないけれども王室に頼まれてタイピンやカフスなどいくつかの品を献上したこともあるという。

 フィリップが恐る恐る差し出した銀のロケットはところどころ透かし彫りの細工が使われた見事な出来栄えだった。

 間近に見れば見るほど、細部まで丁寧に仕上げられた逸品であることが分かる品だ。

「なんて、美しい……。細かなところまで文様がちりばめられていて……わたくし、こんな素晴らしいものはいままで……」

 ロケットから顔を上げて美鈴が見たものは。

 両手で顔を抑えた上、その顔を真っ赤にしているフィリップの姿だった。

「フィリップ様!?」

 慌てて美鈴が声をかけるとフィリップは恐る恐る開いた指の隙間からぱっちりとした瞳をのぞかせた。

「……いえ、すみません……」

 ハンカチを取り出して玉の汗が浮かんだ額を抑えながらフィリップは言った。

「何だか、恥ずかしくなってしまって……。でも、貴女にそんなに褒めていただけるとは嬉しい」

 美鈴からロケットを受け取りながらフィリップは愛おしそうに蓋を指先でそっと撫でた。

「実は、これを作ったのは僕なのです」