正午を少し回った頃から、ラトゥール公園は散策にやってくる上流階級の人々で賑わいはじめる。

 公園のほぼ中央に位置する塔と噴水に向かって馬車道とそれに並行して並木道が続く公園は、貴族社会の人々が遅い朝食を摂った後に繰り出し、散歩するのに絶好の場所だった。

 ここでも、貴族たちは贅を凝らした馬車で乗りつけ、夫人や令嬢は夜会ほど派手ではないものの、それぞれに趣向を凝らした装いに身を包んでいる。

 天蓋を折りたたんだ、さながらオープンカーのような華麗な馬車が列をなす中、ドパルデュー伯爵家の紋章入りの四輪馬車がゆっくりと通りを進んでくる。

 先に公園に着いていた美鈴の馬車からも、艶々と黒光りする馬車の車体とその中央の金色の紋章がよく見える。

 伯爵家の馬車は次第に速度を落とし、ルクリュ家の馬車に横付けすると先ず伯爵家の召使いが降車し、続いてフィリップがゆったりとした動作で扉を開けて馬車を降りた。

 ふっくらとした白い指、色の薄い金髪に水色のビー玉のようなぱっちりとした瞳。

 濃紺の上衣にグレーのズボンを着た身体のラインはお世辞にもスマートとはいい難い。

 少々心もとなさげな表情を浮かべた人の好さそうな青年は召使いとともにルクリュ家の馬車に歩み寄る。

 執事に手を取られて、美鈴も馬車から降り、フィリップの前に進み出た。

 ……やっぱり、似ているわ。

 再び間近にフィリップを見て、美鈴は確信した。

 ルクリュ家にある子供の天使の陶製人形によく似たつるりとした頬にブルーの瞳、チョンと突き出た鼻に小さな唇。

 ……いけない、余計なことを考えていては。

 美鈴はフィリップを前にゆっくりと腰を落として跪礼をした。

「お久しぶりでございます。フィリップ様」

 すかさず、伯爵家の召使いがフィリップの耳元で何事かを囁く。

「あ、ああ……奇遇ですね。こんなところでお目にかかるとは……!」

 白い頬をうっすらと桃色に染めながらフィリップが美鈴に話しかける。