爽やかなレモンイエローのドレスに身を包み。

 丁寧に結われた髪には小ぶりのトルコ桔梗のような白と紫の花飾り。

 鏡を覗き込み、優雅に腰を落としてカーテシーをしてみる。

 ――これで、お見合いの装いは、完璧……。

「素敵ですわ、お嬢様……でも」

 口の端を少し上げじっと鏡とにらめっこしている美鈴に、ジャネットが恐る恐る声をかけた。

「何だか……お顔が……勇ましいですわ」

「……いやだわ、そんなに『悪い顔』をしていたかしら」

 フィリップとのお見合いの準備は全て整った。

 後は、車寄せに待たせてある馬車に乗り込めばいいだけだ。

 恐らく人生一番の勝負所を目前に控えて、美鈴には華麗なドレスも戦場に向かう騎士の鎧のように思えてくる。

 相手は、伯爵家の御曹司!……失敗はできないわ。

 ルクリュ家のためにも、自分のためにも、これが「最善」の選択なのだと――。

 美鈴はこの数日間考えに考えた結果を、もう一度頭の中で繰り返した。

 この数日間、珍しくリオネルがルクリュ家を訪れなかったのも幸いだった。

 全ては、滞りなく進んでいる。美鈴はそう確信していた。

「いってらっしゃいませ、お嬢様!」

 ルクリュ夫妻とジャネットをはじめとした屋敷の召使いたちが見送る中、美鈴はにっこりと笑って皆に応える。

「楽しんでいらっしゃいな」

 そう言って朗らかに笑う夫人の横で、子爵がはにかんだような、泣き出しそうな何とも言えない表情で立っている。

 ……お義父様、そんなに心配しないで! きっと成功させてみせますから。

 子爵に向けてそっと馬車の窓から手を振ると、美鈴はルクリュ家の執事と邸を後にしたのだった。