「……特にオールドローズ。イグラントの流行色だ。何とも言えない気品があって、エレガントな大人の女に相応しい」

 そう言って美鈴にオールドローズのドレスを仕立てた張本人は流し目で彼女を見つめた。

 悪戯っぽい表情、軽い微笑みを湛えた優美な唇のカーブを思い出したところで、美鈴は頭を振った。

 ……今は、目の前のことに集中しなければ。

 次の休日にはドパルデュー家の子息と会うことになっている。

 場所は、貴族たちが散策に訪れるラトゥール公園。

 多くの貴婦人、令嬢、紳士が散策にやってくるそこは、ブールルージュの森と同じくいわば紳士淑女の出会いの場、デートスポットのようなものだ。

 そこで、美鈴はドパルデュー家のフィリップと「散策中に、偶々」出会う手はずになっている。

 入念にセッティングされた、しかしあくまで偶然を装ったそれは、非公式の『お見合い』のようなものだ。

 子爵家の令嬢にとっては玉の輿にのる千載一隅のチャンス――。

『自分の気持ちに素直になったほうがいい』

 リオネルの言葉を何度も頭の中で反芻した美鈴だったが、肝心の自分の気持ちだけがどうにも掴めない。