バラ園を散策した後、ルクリュ家に美鈴を送り届けるとリオネルは屋敷の玄関口で暇乞いをした。

「待って、お義父さまがあなたに会いたがっていたわ。昨晩のお礼を……」

 美鈴が人を遣って子爵にリオネルの来訪を伝えようとするのを制して、彼は言った。

「いや、まだ店の方に用もあるからな。ここで失礼するよ。叔父上によろしく」

 軽く会釈してからいつもと変わらない笑顔で美鈴に微笑いかける。

「ドレスは、明日にでもこちらに届けさせるから。……楽しみに待っていてくれ」

 そう言って身を翻すと彼は悠々とした足取りで屋敷を出て行ってしまう。

 あのバラ園での一件の後、リオネルが婚活やルクリュ夫妻の話を蒸し返すことはなかった。

 今年の夏の天気について、庭園に咲くバラの品種について……。

 女性の扱いをよく心得ている男性らしく、リオネルは花の種類には詳しかった。

「華やかな紅バラもいいが……。俺はもっと深みがあって柔らかな色合いが好きだ」

 ゆっくりと園を散策しながらリオネルは美鈴にそう語った。