鈴のような透き通った声音だったが、何とも時代がかった口調で巫女は美鈴に話しかけた。

「以前、ここに来たことがありますね」

 巫女の言葉は確信に満ちていた。

 つい数か月前に異世界からやって来た美鈴がこの場所に来たのはもちろん今回が初めてだ。

 誰かと勘違いをしているのだろうか……。

「いえ、わたくしはここには今日初めて参りました」

 美鈴がそう答えると、巫女は何を思ったのかふっと微笑んだ。

「覚えていないのなら、いいのです。それも、神の御計らい……。いずれ思い出す日が来るでしょう」

 そう言い残して巫女は美鈴たちの横を通り過ぎると、バラの茂みの中に吸い込まれるように消えていった。

 ……何だったのかしら、今の問いかけは。

 単なる誤解と決めつけてしまうには、巫女の謎めいた言葉には不思議な説得力があった。

「ミレイ……?」

 バラの茂みに駆け寄り、さして広くない庭園を透かし見ても、彼女の姿をみつけることはもうできなかった。