なぜ、それがよくないことなのか、ハッキリとわからないまま、美鈴が口を開こうとした瞬間、リオネルがそれを遮った。

「自分の気持ちに素直になったほうがいい。ミレイ。ルクリュ夫妻もそれを一番に望んでいる」

 真っすぐに美鈴の目を見据えながら、リオネルは言った。

「伯爵家だとか、家柄よりも、大事なものはある。君のことを大切に思っている夫妻が何を望んでいるのか、よく考えたほうがいい」

「……どうして、あなたにそれがわかるの?」

 貴族社会での婚姻はなによりもまず身分、身分がなければ財産が重要視される。純粋な恋愛結婚など稀なケースだ。

 格上の伯爵家から結婚を申し込まれた場合、断る親を探す方が難しいだろう……ましてや、ドパルデュー家はルクリュ子爵の仕える伯爵家の親戚筋だ。

「俺は、叔父上、伯母上とはずっと親しくしてきたからな。二人が大事な『娘』に望んでいることくらいわかる」

 ゆっくりと美鈴に歩み寄りながらリオネルは続けた。

「君が現れた時、一度失った娘を再び取り戻したような、それほど二人とも喜んでいた……そんな君が、悲しんだり不幸になったりするのを彼らが望むはずがない」

 自分の気持ちに素直に……?

 そう言われたところで、元いた世界・東京とはまるで違うこの異世界で美鈴には自分が一体どうしたいのか、見当もつかない。

「そんなこと……言われても」

 思わずリオネルから視線をそらせた美鈴が見たもの。

 神殿の奥から静々(しずしず)と歩いてくる人影があった。

 丈の長い白いドレスを身にまとった、白に近いプラチナブロンドの女性が姿を現した。