昨夜の舞踏会で会ったドパルデュー家の子息のことは、もちろん美鈴も覚えている。

 リオネルとのダンスが終わった後、ダンスを申し込まれて踊った内の一人。

 天使のように滑らかで白くふっくらとした頬、全体的に丸みを帯びたシルエットの彼のリードは少々心もとないものではあったけれど、丸くぱっちりとした瞳が印象的な好人物だった。

「私としては、もちろん君の気持ちを一番に考えている……彼に会う気があれば、ぜひそうすればよいし、もし、嫌なら……」

 歯切れの悪い調子で続ける子爵の話を聞きながら、美鈴はさきほどジャネットが教えてくれたドパルデュー家との関係を思い出していた。

『ルクリュ子爵様が仕える伯爵家と親戚関係にあたる立派な家柄』

 それを聞いた時から、美鈴の心はすでに決まっていた。

「子爵……お義父さま」

 美鈴がルクリュ子爵に呼びかけると、子爵は決意したように視線を上げた。

 その子爵の視線を、美鈴は柔らかな笑顔で受け止める。

「わたし、フィリップ様に会います」

「そ……そうか、よかった! フィリップ様は立派なお方だ。これで私も安心だ」

「まあ、ミレイも乗り気でよかったこと。……ところで、フィリップ様にお会いするなら、訪問着を新調してはどうかしら」