しょんぼり……?あの、リオネルが……?

 堂々として自信に満ちた偉丈夫の上、美男子。

 女性たちの眼差しを射止めることに長けた彼になんと似つかわしくない言葉だろう。

 今度は美鈴が噴き出す番だった。

「リオネルが? 彼が落ち込むことなんてあるのかしら……」

「ええ、わたしの思い違いかもしれませんが……」

 髪を梳く手を止めることなく、ジャネットはやや目を伏せて続けた。

「昔、ミレーヌ様とケンカをしたときなど、リオネル様はよく昨夜のような表情をされていました。……なつかしくて」

 13歳で亡くなったルクリュ子爵家の一人娘、ミレーヌ嬢。

 子爵の甥であるリオネルは令嬢の1歳年上と年も近く親しく行き来していたと美鈴は聞いている。

 ミレーヌが他界して14年、今は28歳になるリオネルの子供時代。

 ましてや、外見的な美点に加えて女性の扱いも上手い彼が、子供時代とはいえ女の子とケンカをする場面など美鈴には想像もつかなかった。

「ミレーヌ様も、芯は強い方だったので……。もちろん普段は仲良くされていましたが、時にはちょっとした口ゲンカくらいあったようですわ」

「そう……。子供の頃ね」

 ふいに、美鈴の頭の中に小さなリオネルの姿が浮かんだ。

 黒髪巻き毛の意志が強く利発そうな少年……。