彼の趣味兼仕事のことを考えれば、ドレスの一着や二着あってもおかしくはないけれど……。

 どのドレスもサイズはほぼ同じ、ごく普通の背丈のどちらかといえばやや華奢な女性のために用意されたように思える。

 まるで一人の女性のために誂えたような……。

 美鈴は一着のドレス――オールドローズ色の外出着に近寄って上から下までじっくりと眺めてみた。

 ややくすんだバラ色の絹が灯りを反射して艶々とした輝きを放っていた。

 大き目の白い襟にはレースがあしらわれ、襟の中央に琥珀色の宝石のブローチがきらりと光り、上品なこげ茶色のリボンベルトが腰にかかっている。

 細部に渡って丁寧に作られたそのドレスは特に美鈴の目を引いた。

「君の気に入ったかな? そのドレス」

 いつの間にか、ティーカップ二つを乗せた盆を片手で掲げ、もう片方の手にティーポットを持ったリオネルが部屋に戻って来ていた。

「もし、本当に気に入ったのならこのまま持って帰ってくれてもいい」

 テーブルの上にティーポットと盆を順番に下ろしながら、リオネルはこともなげにそう言い放つ。

「……なぜ、わたしに?「どなたか」のお願いで特別に用意したものじゃないの?」