キスをした時の伊織さまは優しくて甘かった。


抱き寄せられると、彼のぬくもりを感じて何も考えられなくなりそう。


昨夜、彼の熱情が伝わってくるようで嬉しいような変な気分になったのも確かで。


あんな優しい顔を知ってしまったら、私を嫌ってツンツンしていた彼のことを、もうそんなに怖くなくなってきた気がするんだ。


だけど、これ以上、彼の言いなりになるのは避けなくては。


父との約束もあるし、この結婚は結末が見えているんだから。


旦那さまが帰ってくるまでの一時しのぎ的なもの。伊織さまがどこまで本気なのか計り知れないんだし。


そうだ、彼は私とは住む世界が全然違う人なんだから。


もう一度しっかりと自分に言い聞かせてから、正門へと歩みを進めた。