「つむぎ」


彼が表情ひとつ変えずに、突然キスしてこようとしたので、慌てて顔をそらして阻止した。


「待って」


「どうして?」不服そうにムッとする彼。


「だって」


こっそりと、前の座席の運転手さんを指差した。


人が見てる前でイチャつくなんて恥ずかしいとアピールした。


彼はああ、とため息をひとつしてリモコンを手に取りボタンを押した。


前の座席との仕切りのガラスがサッと黒くなり運転席から私達の姿は見えなくなった。


「ヤバイな俺、周りが見えなくなってきてる」


ひとりごちてから、彼は私を強く抱き寄せた。


「伊織さま、痛いです」


彼は軽く抱いたつもりかもしれないけど、私にしたらその力は強く感じた。


「つむぎは小さくて細いな、それに柔らかい」