「あ、えっと私達も下にお出迎えに行った方がいいんじゃない?」


「呼ばれてからでいいだろ」


「ダメだよ。行こう」


彼は気乗りしないみたい。
旦那様に会いたくなさそうにも見えた。


その時ドアがノックされる音がして、飛び上がるほど驚いた。


「伊織さま、旦那様がお呼びです」


いつもと変わらない南さんの抑揚の無い声がした。


彼は黙って立ち上がり、行ってくるよと呟く。


「ま、待って」


だけど、直前になって私はためらってしまう。


大好きな人の手を離すなんて、本当にできるの?


嫌、やっぱり。


離婚されられたくない。


「どうした?」


「行かなかったらダメかな」


彼はまだ知らない。父と旦那様が私達を離婚させるつもりでいることを。


「・・・」


彼は何も言わずにドアの方へ歩いて行くから、その後をノロノロと追いかけた。