でも好きにもいろいろあるわけで。


何か、無難な返事を必死で考えていたら頭の上から呆れたような声が降ってきた。


「坊ちゃん、お楽しみのところすみませんが、
もうそのへんで、離してあげてください。それは、完全にセクハラですよ」


見上げたら、執事の南さんが二階の伊織さまの部屋から顔を出している。


銀縁眼鏡をかけている彼は普段から物腰の柔らかな紳士という風情だったけど、私とは挨拶を交わす程度の間柄だった。
顔立ちは整っていたけど、あまり感情を表にあらわさない大人と言ったイメージだ。


「なんだ、南、うるさいぞ、セクハラってなんだ?」


「セクハラとは会社の上下の力関係等を利用して、相手に性的な関係を強要することで」


「もういい、黙れ。これはセクハラなんかじゃない」


「じゃあ、なんでしょうか?」

冷静な表情の南さんは、この状況を少しも動じていない。


「こ、これはな、愛だよ、愛」