私はそのハンカチで涙を拭かせてもらった。


「子供のころの夢を見ていたんです。さっき本棚の横に飾ってある写真を見たからかもしれないです」


「へえ、そうなんだ」


彼は一瞬だけ瞳を揺らしたけど、何でもないことのようにこう言った。


「昔のことを思い出すのも考え物だな。夢にうなされるなんて」


「あ、でも子供の頃の伊織さまはとっても可愛かったですよ」


「ふうん、そんなにか?」


「はい、なんていうか本物の王子さまって感じでとっても清らかな瞳で」


「悪かったな、今ではこんな風になって。それ母さんにもよく言われるんだよ。小さい頃はあんなに可愛かったのにーって」


彼が奥様の声真似をしてみせるからおかしくてつい笑ってしまう。