「つむぎ、起きろ。着いたぞ」


伊織さまの声がしたけど、瞼が重くてなかなか起きれなかった。


「つむぎは俺とキスすると眠くなるのか。昨夜もそうだったしな」


ため息交じりの彼の声でようやく目が覚めた。


車の座席の皮張りの臭いと彼から香る薔薇の甘い香りで、ようやくこの状況を理解する。


「あっ、伊織さま?」


「やっと起きたか、奥さん」


彼の胸に体を預けていたようだった。


見た目よりもずっとたくましい胸の厚さ。


カァッと全身が熱くなった。


急いで彼から離れて一緒に車を降りると見覚えのある場所に着いていたのに気がつく。


「え、ここは」


「病院だ。つむぎのお父さんが入院してるところだろ?」


たしかにそこは、父の入院している病院の地下駐車場だった。


「はい、でもどうして?」


「どうしてって、見舞いだけど」


「いいんですか?」