「どうでもよくは」


「いいから、黙って」


そしてとうとう、キスで唇を塞がれるからゆっくりとまぶたを閉じる。


触れるだけのキスに心臓がビクッと跳ねて震えるくらいに感覚が麻痺した。


私を愛おしそうに見つめる彼の眼差し。


大事なものに触れるような優しい彼の手。


耳元にかかる熱い吐息。


それら全てが。


嬉しい。


素直にこうおもってしまった。


父との約束も、御曹司の伊織さまとの格差も何もかもこの時は忘れてしまったみたいに放心していた。


ずっとこのまま2人きりの世界にいられるなら。


そう思えるくらい身も心もいとも簡単にとろけていく。


私は危険な誘惑に片足を踏み込んでしまいそうだった。


それは、我が身ばかりか周りの人達も不幸にしてしまうかもしれない暗い誘惑だったのに。