一途な御曹司と16歳の花嫁

幸い、まだ帰りのホームルームが終わっていないクラスも多かったので人目にはつかなかったのだけど。


暖かく大きな彼の手にしっかりと繋がれると、胸がきゅっと音を立てそうな気がしてしまう。


それに、ふといつだったかこんな風に彼に手を引かれて走ったことがあるような不思議な感覚がしていた。


心の奥底に押し込められた、ほのかな記憶が一瞬だけ顔を出したような気がした。


だけどそれは切ない気持ちを伴って胸に込み上げてくるので、私はそれ以上そのことを考えたくなかった。


「つむぎ?どうした?」


「あ、いえ。なんでもありません」


「泣きそうな顔だな」


昇降口あたりで足を止めた彼は心配そうに私を覗きこむ。


「いえ、伊織さまに手を繋がれて走ったらなんだか以前にもこんなことがあったような気がして」