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 しばらくたわいもない話が続いた。
 六歳児の話だから空想部分が多かったし、マルと火恋の母親がどう怒ったかとか、父親がなにをしてくれたかとか、そんな話だった。

 それでも、普段の僕にとっては十分に興味深い話だったに違いない。なんせ、マルと火恋の両親は僕が御一緒したことのある人達だったんだから。

 彼らは、魔竜討伐のさいに結界師としての任務に就いたことのある人達だった。
 母親である悠南(ゆうな)さんは、水柳国の魔竜討伐のさいに一緒になったことがあったし、父親はさっきまで一緒だった。愁耶さんその人だ。

 でも、僕は話どころじゃなかった。
 一生懸命話をする火恋をまたいで、視線は晃に注がれていた。

 火恋が身振り手振りで話をするさまを、微笑ましく見守る晃は、この世のどの女性よりも優しげで、言葉で言い表せと言われても出来ないくらいにキラキラと輝いて見えた。――つまり、ありきたりな言い方をするなら、信じられないくらいきれいだってことなんだけど……。

 僕の胸は晃を見つめる度に、踊ったり、黄色い声を上げたり、お祭り騒ぎではしゃいだりして、苦しくてたまらない。

 晃から目を離すことなんて出来なかった。それなのに、たまに晃が僕に視線を向けると、さっと目線を離してしまう。

 顔が熱くて、僕は下を向いた。紅潮してる頬を気づかれないようにと願ったりする。そんな忙しなさの中にいて、メモなんて取れるはずがない。――僕は、どうかしてる。たった一度、出逢っただけでこんな気持ちになるなんて。

「火恋様、そろそろ時間です」

 他の御付の人が絶望を告げた。御付の者は護衛の兵士が三人、晃を入れた侍女が三人の計六人だった。
 僕は、時間を告げた侍女をそっと見やった。

(もう晃と離れるのかよ。やっと逢えたのに)

 がっくりと肩を落とした僕を、火恋が見上げていた。くりっとした瞳と目が合うと、火恋はにんまりと笑んだ。

「ねえ、こうとくさま」
 勢いよく王に向って振り返る。
「コイン、ひとつちょうだい?」
「コイン?」
 紅説王は首を捻った。
「ほら、あの……ちがう場所にいけるやつ!」

 身振り手振りで元気良く言った火恋に、王は合点がいったように頷いた。転移のコインが欲しいなんて、どういうつもりだろう? 僕と同じ疑問が過ぎったのか、王も一瞬だけ怪訝な表情を浮かべたけど、何かを思いついたように手を軽く叩いた。

「円火にいつでも逢えるようにしたいんだな?」
「う~ん……」

 火恋は唸って、何かを考えたあと、「うん。そんなかんじ」と言って笑った。王は嬉しそうに笑んで、マルは困ったやつだと言いながらもどことなく嬉しそうだ。