「そういえば、僕もだ」
「俺らが寝てる間に、下男か下女がきれいに拭いてくれたみたいだぜ。俺としちゃ、女子だったら良いんだけどな」
「いや、男だろ。絶対」

 呆れた口調を作って突っ込むと、陽空はハハハッと声に出して笑った。

「だろーな。残念ながら」
 陽空は笑いながら足を崩した。
 僕もつられて笑う。

 こいつと話してると、本当に楽しい。軽口を叩き合える相手がいるって面白いことなんだなと思う。ルクゥ国にいたときにも友達はいたけど、全員貴族だったから御上品な関係だったり、家のしがらみなんかがあって、こんな風に心から笑い合ったり、冗談やバカなことを言って過ごしたことなんてなかった。

 僕は陽空をちらりと窺い見た。
 三日前に死にかけて、その記憶が蘇ってきたとき、思った事がある。

 大切にしたい人は、大切にしようって。
 陽空もそうだけど、僕にとっていつの間にかこのメンバーは、他国の者じゃなくて、仲間と呼べる。いいや、呼びたい存在になっていたんだ。
 
 僕は改めて横一列に並んだ仲間を見渡した。
 アイシャさん、燗海さん、ヒナタ嬢、マル、陽空――。今はまだ来てないけど、紅説王も、恐れ多いけど、仲間だと言いたい。

 神経質な顔で、上段の間の後ろに控えている青説殿下とも、いつか仲良くなれたらいのにと、そう思う。

 青説殿下は僕と目が合うと、怪訝な表情を浮かべた。
 多分、僕の顔は今にやついてるんだと思う。でもしょうがない。だって、なんだか嬉しくてたまらないんだ。

 それと、やりたいことはやろうって決めた。
 僕は目覚めてから、あの少女を思い出した。

 浅葱色の着物を着た、おさげ髪の彼女――晃。あの優しい笑みを、せめてもう一度みたい。そう、心から思った。

 不思議だった。
 目覚めてすぐに思い浮かんだ誰かが、家族でもなく、仲間でもなく、一度逢っただけの少女だったなんて。

 僕はもしかしたら、晃に一目惚れしたのかも知れない。
 それを確かめるためにも、この会議が終わったら、街に探しに出よう。
 もしも逢えたら、今度はちゃんと自己紹介をしよう。

 僕は緊張でざわつく胸を押さえて、決心した。
 晃に逢いに行こうって。
 そのとき、上段の間の奥の障子が開いて、紅説王が浮かない顔つきを覗かせた。

(どうしたんだろう?)