「そう。何事にも検証をしてみる価値はある。それによって魔竜に耐性があるのかないのか知ることは重要なことだと思う」
「まあ、確かにそうさなぁ」

 燗海さんが呟いて、ちらりと王を窺ったような気がしたけど、すぐに青説殿下がマルに賛同した。

「円火の言うとおりだ。すぐに実践しよう。兄上も、それで宜しいですな」

 青説殿下は伺うというよりは、押し付けるように言った。有無を言わさぬ口調に、紅説王は暗い表情で頷いた。

 話が決したところで解散となり、僕は大広間を出るさい振り返った。
 そこには、思った通り、紅説王と青説殿下が残っていた。向き合うようにして立っていた青説殿下は僕の視線に気が付いて、こちらに目線を向けた。僕は慌てて向き直り、皆に続いて歩き出した。

 そして少し行ったところで、こっそりと列から離れて戻った。
 僕が戻るとすぐに青説殿下の声が聞こえた。僕はしゃがみ込んで、すでに閉まっていた障子に耳を寄せた。

「兄上、すでに貴方の頭の中にマルの意見は浮かんでいたでしょう。何故、言わなかったのですか」
「それは、お前ならば分かるだろう」

 青説殿下の声音は、責めるものでも疑問に満ちたものでもなかった。ただ、淡々としていた。それに答える紅説王の声音は、反対にうんざりとしたような感情が乗っていた。

「分かりますよ。でも、私は兄上の口からお聞きしたい。その甘ったれた考えをね」

 当然だというように、青説殿下の声音はきっぱりとしていて意地が悪い。
 王はしばらく黙っていた。

 表情が見えないのが悔しいところだけど、想像するに不満げであったり、困惑していたりするに違いない。
 そしてやっと聞こえてきた紅説王の声音は、憂鬱そうに沈んでいた。

「また、数多の犠牲を出すことになる。きっと、今度は人間も増えるだろう。お前がそうさせるのだろう。青説」
「当たり前です」

 青説殿下は一蹴した。
 僕はどういうことだろうと疑念に駆られながらも、ペンを動かした。

「此度の件で必要になった犯罪者の命は、すべて条国の者達です。動物も、そのほとんどがこちらで用意した。共闘だと言いながら、列国は我らの恩恵にあずかろうとしかしていない。そんなことがまかり通りますか」

 青説殿下は怒りを押し殺したような声音で言い、紅説王はそれを宥めるように、「だがな、青説――」と言いかけたけど、青説殿下はそれを遮った。

「兄上。我らの国は、他国に比べて人口が少ないんですよ。国土も狭いうえ、その半分以上がドラゴンの住処になっている。そして、魔竜の住む数も他の国よりも多いんです」
「それはそうだが、魔竜の多さなら、ハーティムや水柳だって引けを取らないだろう」
「だが、人口は勝る」

 きっぱりと言って、青説殿下は続けた。