胸を躍らせながら庭へ出ると、もうすでにパレードの準備は整っていた。芝生の生えそろった広場に、門へ向かって長い行列が出来ている。

 象や、馬、そして貴重なラングルが、ビシッと一列に並んでいるさまは壮観だ。

「おい! 早くしろ!」

 見惚れていた僕に、兵士が列の中から声高に叫んで手招いた。慌てて列へ近づくと、きょろきょろと辺りを見回す。

 列の中心にいた象の上から誰かが手を振ったのが見えて、僕はその象に駆け寄り、象にかけられた梯子を上って覗いた。豪華で煌びやかな椅子に腰かけていたのは、二人の男女だった。

 どちらも神官の正装を身に着けている。一人は、ツバがなく丈高い帽子を被り、純白のマントを羽織っている中年の痩せた男で、もう一人は金の髪を上品に纏めて、大きな花柄の髪飾りをあしらっている少女だった。僕と同い年くらいの子だ。どことなく、手持無沙汰な表情をしている。

「やっと来たかい。じゃあ、私はお役御免だね。さあ、さあ、座りなさい」

 彼はそう言って席を立ち、僕にそこに座るよう促すと、そそくさと退散した。少し緊張しながら彼女の横に座る。

(もしかして、彼女がそうなのか?)

 僕は隣の少女を窺い見た。彼女の肌は白いと言われる僕らルクゥ国の人間から見ても、極端に白く、透き通るように美しい。その緑色の瞳は陽光を受けて、雨上がりの野草のように煌めいた。この肌と瞳の色の特徴は、ルクゥ国の北部に住む少数民族に見られるものだ。

「こんにちは。もしかして、ヒナタさん?」

 僕が尋ねると、彼女はすっと首だけを動かして僕を見た。そして、瞳を軽く閉じ、頷くように瞬きをした。どうやら本人らしい。

「わあ。そうなんですね。僕、レテラ・ロ・ルシュアールです」

(ルクゥの英雄に会えるなんて、感激だぁ!)

 僕は興奮しながら彼女に握手を求めた。しかし、ヒナタ嬢はその手を無視して、つまらなそうに視線を外へ投げた。

 手のひらは行き場をなくして、わしゃっと空を掴む。成す術もなく、僕は腕を引っ込めた。

 彼女は、ヒナタ・シャメルダ・ゴートアール。

 ルクゥ国では、かなりの有名人だ。

 神戦巫女や血の巫女と呼ばれ、神官でありながら、戦場に立つ。

 鮮血を操る能力を保有し、竜討伐や、敵国との戦いで名を馳せた英雄だ。それでいて、その場に居るだけで、薔薇が香り立つように魅惑的なオーラを放つ少女だという噂だった。

 今回の任務の本当の主役は、僕ではなく彼女だ。

 彼女は、魔竜討伐にルクゥ国の中で唯一選ばれた猛者だった。僕は、そのおまけだ。

 密かにヒナタ嬢に目をやった。

 確かに、ヒナタ嬢には不思議な魅力がある。その容姿故なのか、思わず目を引くんだ。でも、噂によれば戦いの神、ジャルダ神に心酔しているとか。

 もしかしたらヒナタ嬢が戦場に立つのは、ジャルダ神への憧れ故なのかも知れない。

 なんだかむくむくと好奇心が湧いてきた。

(真実を確かめたい!)

 僕は、ヒナタ嬢を見据えた。