「その簡単という例えに使われた殺すのでさえ、容易にはいかないからこうして各国で手を組んでいるんですけど……」

 アイシャさんが表情を曇らせながら、呟くように言った。
 陽空と燗海さん、紅説王が、何故かアイシャさんに心配そうな視線を送ると、珍しいことにヒナタ嬢も興味を示すような視線でアイシャさんを見た。どことなく気にかける――そんな瞳だった。

(やっぱり、アイシャさんに何かあったのか?)
 僕が訝しみながらようすを窺っていると、マルが場にそぐわない声を出した。

「うん。やっぱり」

 快活に出された声音からは、今の状況をまったく読んでなかったことが伝わってくる。
 マルはそのまま続けた。

「もう一度魂の塊を作り、その中に吸魂竜の術式を組み込んだ呪符を入れて、それを餌におびき寄せて、結界で魂の塊と魔竜を取り囲むしかないんじゃないですかね。取り囲んだら、術を発動させれば良い」

 さすが研究狂い。
 さっきから実験の事しか考えてなかったみたいだ。

 僕は呆れつつも感心してしまった。
 おかげで空気は元に戻ったし、アイシャさんも曇り顔ではなくなった。

「でもそれでは、青説殿下が仰ったように魂を吸い出せないのではありませんか。同種は可能性が低いのでしょう?」

 アイシャさんの懸念にマルは、「だからだよ」と続けた。

「突然変異の段階で、その機能が失われた可能性もあるんだ。確かに、耐性を持っている可能性は高いんだけど、でも持ってないとは言い切れない。だからこその、実験だよ」
「実験?」

 陽空が怪訝な声を上げた。皆は声のした方、陽空を向いたけど、僕はマルから視線を離さなかった。だから気づいたんだ。今度はマルの後ろにいる紅説王の表情が暗雲のように暗くなったのを。そして、その後ろで、王の表情をその背から読み取ったように、青説殿下が顔を顰めるのを。

 でも、その変化に気づかなかったマルは、話を続けた。