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 マルは城の研究室に戻っていた。彼は熱心な様子でドラゴンの舌に向き合っている。
「マル」と声をかけたら、片手で制されてしまった。そのすぐ後に紅説王がやってきて、二人で何やら話し始めた。僕は、是非とも話を聞きたいとそっと歩み寄ったけど、今度は紅説王に止められた。

「すまない、レテラ。生きた吸魂竜を捕らえに行きたいから、アイシャかヒナタ、燗海を連れてきてくれないか。出来ればアイシャが好ましいが、急いでいるから誰でも良い。陽空、君もきてくれ」

 紅説王は僕を飛び越して、研究室の隠し扉にもたれかかっていた陽空を見た。

「は~い。了解しました」

 陽空の快活な返事が背中に突き刺さる。

(お前、本当は行く気全然ないくせに。僕と代われよ!)

恨みを込めて振り返りざまに陽空を睨むと、陽空はにやっと頬を緩ませながら肩を竦めた。

「むかつく」

 僕は呟いて、あっかんべーをして陽空を通り過ぎると、くっくっと、後ろからおかしそうに陽空が笑った声が聞こえた。

(あいつ、本当むかつくな!)

 僕は廊下で遇ったアイシャさんに事情を話した。ヒナタ嬢には恨まれるかも知れないけど、先に遇ってしまったのだから、しょうがない。

 アイシャさんが合流してすぐに、紅説王は僕にマルと残ってマルの手伝いをするように言いつけると、アイシャさんと陽空とともに、吸魂竜を捕まえに出かけていった。もちろん、転移のコインで。

 その時、陽空が何やらアイシャさんに話しかけていたけど、どうせまた軽薄な口説き文句だろう。

 残ったマルに事情の説明を求めたけど、ぶつぶつと独り言を呟いては、研究室の片付けや準備に追われて一言も答えてくれなかった。そのくせ、僕にはたっぷりと準備を手伝わせたけど。