「なんか、柳(りゅう)とかいう名前になるみたいだぜ」
「へえ。良い名前だね」
「そうかぁ? 俺は何でも良いけどな」

 弟に興味がなさそうに頭の上で腕を組んで、陽空は空を見上げた。
 不意に、切なげにこぼした。

「俺、ずっと不思議だったんだよなぁ。お前のとこの一族と俺達焔家はどうして一緒にいるんだろうって。俺が生まれるよりずっと前から一緒に暮らしてる。かといって、主従関係でもないし、親族でもない。変だなぁって思ってたんだよ」
「おばさんに訊いてたことあったもんね」

 陽空は頷いて若葉の隣に座った。

「でも母ちゃんも父ちゃんも結局知らなくってさ。爺ちゃんもそういえばどうしてだろうって首捻ってて」
「誰も知らない事だったんだよね。本当、不思議だよ。先祖にこんな悲劇があったなんて」
「だけどよ、こうして平和に日輪国で暮らしてるってことは、巻物に書いてあるお前の先祖の無念つーか……は、晴れたんじゃね?」
「そうだね。だと良いよね。僕は今更、条国を復活させたいとは思わないけど、こうして平和に暮らせてるんだもん。ご先祖様も喜んでくれてると思う」
「だな」

 ふと、若葉は視線を落とした。

「でも、子供の頃に一度だけ訊いた話を思い出しちゃったよ」
「ん?」
「僕らが渡歩(ワホ)だったという話は聞いた事があるんだ」
「渡歩って、旅芸人とか竜狩師のことだよな。国を持たずに旅してまわってるっていう……。俺らって旅芸人やってたのか?」

 若葉は軽く苦笑して、かぶりを振った。

「傭兵集団だったらしいよ」
「マジでか?」

 目を丸くした陽空に若葉はうんと頷く。