『晃は魔王の中に封印され、あかると共に眠りについているだろう。でももし、誰かが封印を解き、魔王を浄化できたのなら、魔竜もきっと復讐心から解き放たれ、魔王と共に消滅するに違いない。そして、僕はまた晃と共に生きられる。例えそれが天国と地獄に分かれていようとも……。その日まで、僕は向こうで君を待つ』

 巻末の最後には、こう記されていた。三条若葉はその一文を黙読しながら、今は亡きレテラ・ロ・ルシュアールに想いを馳せる。

「よう! ここにいたのか!」

 陽気な声がして振向くと、臙脂に輝く髪を風になびかせながら、褐色の肌の青年が手を振って近寄ってきた。焔陽空だった。

 のんびりと若葉の側まで来ると、景色を眺める。

「お前、ここ本当に好きな」

 まあね。若葉は答えながら陽空が眺めている景色を見つめた。
 日輪国の学校(テコヤ)はいくつもの建物が隣接して建っている。大体が一階建てで、渡り廊下を使って移動出来るようになっている。だが、中心にある建物だけは三階建てだった。全ての階が図書室になっている。

 若葉はここの二階にあるバルコニーが好きだった。
 周囲の建物の屋根が眼下に広がり、瓦屋根が陽に光るとキラキラして海にいるような気分になる。

 バルコニーはかなり広く、二階にある全ての窓から出入りが出来た。ガラス張りの窓の内側には障子があり、必ずいつも障子は閉められている。書物を守るため、バルコニーに出るさいや室内に戻ったさいに必ず閉める決まりになっていた。

 だから、内側の人は見えない。外に出る者も稀だから、このバルコニーは大体いつも若葉が独占している。

「それ、何回読んでんだよ」

 陽空は呆れ混じりに言ったが、読み返したい気持ちは分かっていた。

「何回でも読み返すよ。……僕たちのルーツが解ったね」
「まさかな展開だよな」
「家族にも話すの?」
「ああ、そのつもり」

 僕も、と若葉は小さく言って、

「そういえば、先月産まれた弟の名前決まった? あの瞳がくりくりな子」

 思い出して若葉はふふっと微笑む。
 産まれたばかりの赤子と言えば、大概可愛くない。母親や父親からすればわからないが、他人の若葉から見ると何となく何かの動物に似ていて、大して可愛いとは思えない容姿だったが、陽空の弟は産まれたばかりのときから可愛いと思った。

 くりくりとした大きな瞳がそう思わせたのだろう。実際弟は、他の赤子よりも断然目が大きかった。