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 その神殿は、ルディアナ教が出来る前の神殿だと言われていた。朽ちかけていて今にも崩れだしそうだが、この神殿の奥には洞窟が広がっている。迷路のようになっているため、誰も入らない。今の僕にとっては好都合だ。

 僕はロウソクの僅かな灯りをもとに、洞窟の奥へ行き、適当な場所で巻物を広げた。そして、目を閉じて、僕が条国へ行ってからの十七年間を、僕の全身全霊を使って思い出した。

 僕は一心不乱に書きまくった。僕の命の期限は、あと二十時間しかない。その間で、僕は一生懸命に生き、理不尽に殺された僕の大切な人全ての記録を書かなくてはいけない。

 僕の使命は、書くこと。そして、後の世に本当の歴史を残すことだ。

 真実が捻じ曲げられたまま、闇に消えることがあってはならない。そんなことになれば、死んだ者の魂は浮かばれはしない。何十年かかっても良い。いつか、条国に起こった悲劇を誰かの目に届けられたなら……。

 そのためになら、僕はなんだってする。心も、命すらも惜しくない。全てを書き記すことが出来るなら――。