* * *

 それから僕は地下牢に戻され、封魔書なるものを書かされた。
 内容はミシアン将軍が言ったそのものだ。きっとこれは、後の世に伝説として語り継がれるんだろう。今ある神話のように。

 この偽りの伝記を書いているさいに、僕は信じられない再会を果たした。僕が帰郷して、三ヶ月程経ったころだった。

 僕はその日も、地下牢で黙々と封魔書を書き綴っていた。牢の中にある古びた机で、巻物に向っていたが、ふいに物音がして振り返ると、地下牢の番兵が倒れていた。

 そしてその代わりに、フードを被った人物が立っていた。その人物は辺りを窺うと、フードを取った。

 心臓が跳ねる。
 火恋だ。

 僕は思わず大声で名前を叫びそうになって、慌てて口を塞いだ。そして、よろめきながら歩き、鉄格子を掴んだ。小さな声で、

「火恋。生きてたんだな」
「ええ。陽空さんが、私とアイシャさんを逃がしてくださったんです」
「あいつ……」

 僕は泣きそうになって、ぎゅっと口を結んだ。

「じゃあ、アイシャさんも?」
「生きてますわ。今、他の者と一緒に牢屋の入り口で見張っていて下さっています」
「そうか」

 僕はほっとして胸を撫で下ろした。一人でも多く生き残ってくれてたのが、心底嬉しかった。
だけど、彼女が愛した陽空はもう……。

 僕は陽空の最後を思い出して、胸が痛いほど締め付けられた。僕は自分の目的のために、彼を見殺しにしたようなものだ。

「アイシャさんを呼べないか? 彼女に陽空の最後を伝えたいんだ」

 罵られても良い。彼女には陽空の最後を知る権利がある。だけど、火恋は静かに首を振った。

「伝えなくて良いですわ」
「どうして?」

 今伝えなかったら、一生アイシャさんは陽空がどうして死んだのか知らないままだ。

「今、ショックを与えたくないんですの。彼女のお腹の中には陽空さんの赤ちゃんがいますから」
「え?」

 言葉を失った。けど、心底嬉しさが湧いてくる。

「そうか……そうなんだ」

 胸が熱くなって、自然と涙が零れ出ていた。鉄格子に寄りかかるようにして、僕は大きく息を吐き出した。

「レテラ」

 決意ある声に顔を上げると、火恋が真剣な眼差しで僕を見据えていた。

「私、諦めませんわ」

 火恋はぎゅっと僕の手を握った。