「さて、君達を生かしたのは、火恋という次期国王に決まっていた女が、どこにいるのか、誰なのかを証言してもらおうと思ってね」
「誰が言うかよ」

 陽空は将軍を睨みつけて唾を吐きかけた。将軍には届かなかったが、一瞬だけミシアン将軍は不快そうに眉を顰めた。珍しい、そんなことが過ぎったとき、

「立たせろ!」
 ハーティムの将軍が叫んで、兵士が皆を立たせた。

「打て!」

 兵士達は号令と共に、槍の側面を一斉に皆に打ちつけようと振りかぶった。そのとき、
「待て!」
 マルが叫んだ。

「火恋は、僕だ」
(マル? なにを――?)
「嘘をつけ! 貴様は男だろう!」
「違う! 僕は女だ! 僕が、火恋だ! その証拠に、ずっと紅説様と研究を続けていたのは僕だぞ! 次期国王だからこそ、ずっと研究に立ち会っていたんだ!」

 ハーティムの将軍相手に、マルは怒鳴り返した。そして、強い瞳で僕を見据える。強い意志を感じて、僕はマルが何を言いたいのか、解ってしまった。

「……そうだよ。そこの、女の言うとおりだ。彼女は女で、火恋だよ。眼鏡を取って見ると良い。そうすれば、はっきりする」
「レテラ?」

 陽空が動揺した声音を出したけど、僕は陽空を見れなかった。
 ハーティムの将軍が顎で合図を出し、兵士がマルの眼鏡を取った。現れたマルの素顔に、皆が息を呑んだ音が聞こえた。
 その中には陽空も含まれていた。

(そうか。陽空はマルが女だって知らなかったんだっけ)

「分かったか。僕は火恋だ。そうだな、皆」

 マルは二条家の者達を振り返った。彼らは悲痛な面持ちで頷いた。マルの両親である愁耶さんと悠南さんは、身を乗り出したけど、マルに視線で止められた。
 悠南さんは泣き出し、愁耶さんが彼女を抱きしめる。

「どうやら、そのようだ」
 ハーティムの将軍は納得して、兵の槍を下げさせた。マルは彼を見据える。

「お願いがある。ここの、二条の者達を生かしておいて欲しい」
「何をバカな。貴様の顔が判明した今、生かしておく必要がどこにある」
「いや、生かしておいた方が良い。これは、お前らのために言ってるんだぞ。結界師が一人もいなくなれば、困るのはお前らじゃないのか」
「なに?」

 ハーティムの将軍は怪訝に眉を顰めた。そこに、賛同する声が上がった。