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 馬車に乗り込んだ僕らは、一路、城へと戻った。

 城の造りはルクゥ国のものとはまるで違った。祖国では王宮と呼ばれるその条国の城は、小高い山の上に築かれ、坂を上っていくと、重臣たちの屋敷があり、中庭を突っ切るように行くと、やっと本殿がある。

 その中庭だって、外壁に囲まれていて、重臣たちの屋敷から侵入者を狙えるようになっている。

 僕らの国では、このような要塞は王宮以外の城塞都市にしか存在しないし、こんなに攻撃にも守りにも適しているものではなかった。どちらかというと、ルクゥ国のものは守りに特化しているといえる。

 城を見回しながら、自然と顔がにやけてしまう。だけど、そんなことに構っている暇はない。僕は、周りを注意深く観察しながらメモを取った。

 僕らは城の門を潜ったところで馬車を降りた。僕らより進んだところから馬車を降りて来た陽空を見かけて、僕は走り寄った。

「陽空!」

「おう。アイシャちゃんと、ヒナタちゃんは見てたか? 俺の活躍!」

「早速それかよ。まあ、良いや。ところでさっきのなんなんだよ?」

「ちょっくら気になってたんだけど、お前、タメ口早いよなぁ。ホント、良い性格してんぜ」

 そんな事より早く! と、僕は手をばたつかせた。陽空は笑窪を作りながら、にやりと笑んだ。

「せっかちは女に嫌われるぜ」

 などとくだらないことを述べて、本題に入る。

「俺の能力だよ」

 得意顔で言った陽空に、僕はわくわくした気持ちで訊いた。

「やっぱり、陽空は能力者なんだね」

「あったりまえよぉ!」

 陽空は大きく頷く。

 この世界には、能力者と呼ばれる者達が存在し、様々な能力が使えた。

 大地を操れる者もいれば、水を造り出せる者もいる。

 ヒナタ嬢だって、血液を操る能力者だ。

 かくゆう僕も能力者だけど、普段生活するぶんにはあまり意味のないものだった。能力を発動させたことすらない。

 ルクゥ国では生まれた赤子に能力があるかどうか、宗教名でもあるルディアナ神に仕える巫女に視てもらうことがある。巫女っていってももう婆さんだけど、僕はその巫女に視てもらったらしい。

 両親から能力について聞かされたとき、両親はすごく複雑な表情をしていた。僕もすごく複雑な気分だった。

 出来れば、使うときがこないで欲しいし、使うとしても、もっとずっと先が良い。そんなことがぼんやりと過ぎったけど、陽空の話に耳を傾けた。

「俺の能力は、磁力を操る力でな。電磁気ってやつで、魂同士をくっつけたんだよ」

「そんなことが出来るの?」

 驚いた僕に、陽空は困ったように眉間にシワを寄せた。

「まあ、出来たな。俺も半信半疑だったんだけど、紅説王に理論上は出来るはずだからやってみてくれって言われてさ」

「すごいな。そんな理論、どうやって出したんだろう? 今度研究室かなんか見せてもらえないかな」

 ぶつぶつと独り言を呟いた僕に、陽空は律儀に応答した。

「さあな。頼んでみたら?」

「そうしようかな。――でさ、紅説王が塊に入れてたのって、やっぱ操相の呪符なの?」

「ああ。そうだって。確か、対になる呪符があって、それで操るんだと。それをつけられた相手は、もう一枚の呪符を持ってる相手に操られるんだって。ただし、王でなければ、上手く操れないんだとよ」

「へえ……。やっぱ、紅説王も能力者なんだよね」

「そりゃそうだろ。なんせ、神の一族だからな」

 陽空は当たり前のように言った。

 この世界には、能力を持たずに生まれる者も少なくない。でも、条国の王族は、何故か一族全員に能力が宿っているらしい。神の一族と条国では崇められていた。その辺も是非、聞き記しておきたいところだ。