「次期王の座が決まってからというもの、こびへつらったり、執務的な奴ばかりが私の周りにやってきた。でも、晃は変わらず、私のたった一人の味方で、家族でいてくれたのよ。その晃を犠牲にしておいて、その犠牲の下で現れた女なんか、受け入れられるわけないわ」
「だが、迷ってた」

 殿下は微苦笑を浮かべたが、その目はどことなく切なげだった。

「……そうね。聖女とやらが、きちんと仕事をこなして、苦悩でもしていてくれれば、赦せたかも知れないですわね」

 火恋は嘲笑するように頬を持ち上げた。そして次の瞬間、僕は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

「――あんな女、死んじゃえば良いのよ」

「悪いが、聖女を殺すことはないぞ。魔竜を倒してもらわねばならん」
「そんなの知ってるわ」

 僕の耳は、数秒間音を聞き流した。死んじゃえば良いだって?

「晃を返して欲しい――えっ!?」

 気がつくと僕は駆けて行って、火恋の腕を掴んでいた。

「こっちに来い!」
「な、なんですの!?」

 僕は慌てふためく火恋と、あっけにとられたようすの殿下に構わずに走り出した。
 死んじゃえば良いだって? ――冗談じゃない。