二人の横顔が周りを気にするように左右に、そして前後に動く。僕は、見つからないようにゆっくりと座り込んで聞き耳を立てた。
二人との位置はちょうど直線だし、離れてはいるけど、静かだからよっぽど小声を出されなければ聞き取れるだろう。
聴覚に神経を集中させる。
誰もいないことを確認し終わると、青説殿下が切り出した。
「決心は決まったか?」
「決まったわ」
火恋は硬い口調できっぱりと言った。
(決心?)
「私、貴方の味方をしてさしあげる。貴方の望みどおり、紅説王を失脚させて、王座に就いてやろうじゃない。その際にはちゃんと関白として貴方を置いてあげるわ」
(本気か!?)
僕はすぐさまメモ帳とペンを取り出して速記する。驚愕と、戸惑い、そしてほんの少しの好奇心がない交ぜになる。
すると、不意に青説殿下が自嘲をもらすように、ふっと笑った。
「貴様は兄上贔屓だと思っていたよ」
「それは二年以上前のことですわ」
火恋は冷たく言った。
「私の大切な晃を殺しておいて、あんな女とイチャつくなんて。あんな人、もう王に相応しくなんかありませんわ」
――晃?
「晃は私には、姉よりも姉代わりで、子供を顧みない親よりも母親だったわ」
火恋は、一瞬だけ泣き出しそうに唇を振るわせた。



