「今回は速いじゃんか」
 僕が皮肉って言うと、マルはそれを受け取らずに答えた。
「今回は元々原型があったからね。それに少し手を加えるだけで良いから」
「原型って僕も知ってる?」
「もちろん」

 マルは深く頷いた。

「あれだよ、操相の呪符」
「ああ、あれか。魔竜に一回入れてみた呪符か」
 第一の魔王のときのだ。懐かしいな。
「まあ、成功するかどうかは、やってみなくちゃ分からないけどね」

 マルは目を輝かせながら、「さあ」とあかるに呪符を差し出した。
 僕は王に一瞥を送る。王は、若干ながら不安そうな顔色をしていた。好きな人を実験体にするのは、嫌なもんだよな。

「あかるの前に他のなんかで試してみたら?」
「そうだな。それが良いかも知れん」
 僕の提案に、王は乗ってきた。あくまでも冷静だったけど、安堵感が滲んでいる。
「別に大丈夫だと思うけど」

 マルは怪訝そうに眉を寄せたけど、「まあ、紅説様が言うならそうしましょうか」と、すんなりと了承した。
 しかし、そこで意外な声が上がった。

「いえ。大丈夫です。あたし、やってみます」

 あかるは軽く手を上げて、にこりと笑う。
 僕が王を窺い見ると、目が合った。視線を合わせて、うんと頷く。何故頷いてしまったのかは分からないけど、自然と出てしまった。
 王は不安を飲み込むように口を結んで、あかるに向き直った。

「本当に大丈夫か?」
「はい」

 あかるは強く頷く。
 王も頷き返した。

「分かった。危険だと感じたらすぐに剥がすから安心しろ」
「はい」

 互いに想い合い、見つめ合う二人に、マルが嘆きめいた言葉を投げた。

「過保護だなぁ。昔はそこまでじゃなかったのに。どうしたんです?」

 二人はロウソクの火のように、ぽっと顔が赤くなって目線を逸らした。
 気持ちは分かるけどな。どっちも。

 それにしても――僕は呆れた目をマルに向けた。マルは訝しがりながら、首を捻っている。

(二人の関係、やっぱり気づいてないのか。マルは)