「大丈夫か?」
 心配そうに尋ねた王に、あかるは柔和に微笑んで頷いた。

(そういうところが、重なるんだよな……)

 もっと、あかるが不真面目だったり、バカみたいに明るかったり、弾けるように笑う子だったりすれば良かったのに。
 僕は、複雑な気分で椅子に座った。

(それにしても……)

 王とあかるは御互いに見つめ合ったまま、熱い視線を交わす。本人達は一瞬のつもりなんだろうけど、もう十数秒は経ってるだろ。
 僕は呆れつつも、にやりと笑った。

(お呼びでないね。こりゃ)

 ポケットからメモ帳を取り出そうと首を左に振ると、研究室の入り口に誰かが立っているのに気がついた。火恋だ。

 火恋は不機嫌な表情を浮かべていた。その瞳は火のように何かがたぎっているのに、静かな鋭さを秘めているように鋭利だ。それはあかるだけではなく、確実に王にも向けられている。僕の背筋に、ぞくっと悪寒が走った。

 火恋は僕に気づくと、すまし顔で髪を後ろへ払い、入室した。
 あかるが挨拶をすると、火恋は無言で羽織を引いて会釈をする。

 僕はしばらく、あかる、王、火恋に注視したけど、特に変わりは見られなかった。あかるは、瞑想に神経を集中させているし、王はマルと呪符の開発に勤しんでいる。

 火恋は僕から少し距離をとって、王とマルとあかるのようすを見ていた。鋭い視線はたまに送るものの、それ以外は特に何をするわけでもなく王とあかるを見ている。

 火恋は本当に、何をしにきたんだろう? これと言って研究に口を出したりするわけじゃないし、王とあかるを見ているだけ。

 本当に王が好きだとか? でも、あの瞳を見た限りではありえない気がする。あの、悪寒が走る鋭い瞳は恋敵にならともかく、愛する者に向けられるものだとは到底思えない。
 僕は、思い切って火恋に訊いてみることにした。

「火恋」
 声をかけると、火恋は振り返って怪訝そうな顔をした。