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 火恋がきてから三日が経った。
 火恋はこの三日、研究所に入り浸っていた。

 この日も、火恋は研究所であかるの修行を見ていた。昨晩、僕はふとあることに気がついた。火恋の視線は、常にあかると王を追っていた。その瞳は、ぞっとするほど鋭いものがあった。

 もしかして、火恋は王が好きだったりするんだろうか。それで、あかるに嫉妬したりとかして。んなわけないか。

 ぐるぐると思考をめぐらせながら、僕は研究室へ向った。秘密通路を通って研究室を覗くとまだ誰も来ていない。

「珍しいな。僕が一番乗りか」

 独り言を呟いてから、僕は壁際に椅子を持って行き、そこに座った。東側の壁際のこの席は、南側の出入り口も、実験で良く使う机も、部屋中を全体的に把握できる位置にある。実験を見る時は、大体ここで見ていた。

 しばらくぼうっとしていると、カツンと小さな音がした。振り返ると、研究室の入り口にあかるが立っていた。あかるは、「おはようございます」と礼儀正しく挨拶すると、入室した。

「おはよう」
 僕が返すと、あかるに続いて王とマルが顔を出した。
「早速だけど」

 マルはあいさつもそこそこに、腰に両手を当てて新しい修行方法を考案した。
 それは、呪符を使ったもので、呪符を貼り付けられた者は深く眠りにつくというものだった。

「眠っちゃって良いのかよ?」
 僕が疑り深く尋ねると、マルは軽く頷く。

「寝るって言っても、普通の眠りじゃないんだよ。瞑想状態を深くするものなんだ。意識を深く沈めることによって、あかるの中にいる魂と対話が出来るんじゃないかなって」

 僕は王を窺い見た。王は、眉間にしわを寄せて考え込んでいる。どことなく拒否感が見えた気がした。王はゆっくりと唇を開くと、「危険はないか?」と尋ねた。

「多分、大丈夫じゃないですか。呪符を剥がせば眠りから覚めるようにすれば、深く重なったしたとしても、強制的に連れ戻せると思うし」
「それは、そうかも知れんが……」

 紅説王は、心配そうにあかるに視線を送る。あかるは僕達から少し距離をとって、話を聞いていた。

「あたしは大丈夫ですよ」

 あかるは明るい調子で言って微笑んだ。なんとなく無理をしているような気がする。
 王もそう思ったのか、不安そうな表情を浮かべた。

「紅説様。作れますか?」

 状況を読まないマルの楽観した声音に、王は若干の嫌悪感を醸し出して、「作れない事はないが……」と言葉を濁す。
「じゃあ、お願いします」

 マルは嬉々として、早速呪符の制作に取り掛かろうと動き出した。僕は密かに嘆息する。軽く首を振ってあかるに声をかけようとすると、王に先を越されていた。