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厠から戻ると、見慣れない後姿があった。人数は三人で、左にいる男は鎧を纏っていたから、兵士だとすぐに分かった。
右の女は、後姿を見るに中年の女性だろう。肉付きが良く、背中が丸い。着物は地味な色合いをしている。真ん中にいるのは、おそらく少女だ。
背が低く、長い髪を二つに結っている。
華奢な肩は打掛の上からでも良く分かる。床についた紅い打掛の裾には派手な薔薇の花があしらわれていて、なんとなく、毒々しい。燃え盛る炎のような印象を受けた。
「ああ、ちょうど良いところに」
紅説王が僕に気がついて声をかけた。それにつられて、三人は後ろを振り返った。僕は、思わず息を呑む。
「……火恋?」
間違いない、火恋だ。
火恋は一瞬驚いた表情をしてから、二つに結った長い髪の片側を弾くように後ろに流し、軽くお辞儀をした。
顔を上げた火恋はすまし顔で言った。
「久しぶりですわね。レテラ」
(レテラか。昔はレテラおにいちゃんって言ってたのに……)
僕は若干の寂しさを感じながらも、片手を挙げた。
「ひ、久しぶり。お前、大きくなったな」
思わず声が上ずってしまった。
ぎゅっと一文字に口を結ぶ。何だか、緊張してきた。
「そりゃ、そうですわ。もう十五歳ですもの」
「はあ~。そうか……」
そうか、もう火恋もそんな年になるのか。僕は、感慨深く息を吐いた。
あれから、二年経つんだもんな……。
火恋は同じ十五歳の子と比べれば背は低いが、昔、思ったとおりに、美人になっていた。それにしても、
「お前、その喋り方なんだよ」
僕はつい、くすっと笑ってしまった。
「昔は、おにいちゃんとか、だもんとか言ってたのに」
「いつの話ですか。もうそんな年じゃありませんわ。王族らしく振舞わないと」
火恋は呆れたように言って、腕を組んだ。
(そっか。あれから火恋も頑張ってきたんだろうな)
火恋の言動の端々から自信が窺える。きっと、この二年努力の限りを尽くしてきたんだろう。僕はなんだか嬉しいような、切ないような思いに駆られた。
まるで娘や妹の成長を見届けたような、そんな一縷の寂しさ。そんな類の感情だ。



