* * *
「だからさ。想像力が足りないんじゃないかな?」
研究室に入るなり、マルの淡々とした声音が聞こえた。
「……はい。やってるつもりなんですけど……」
マルはあくまでも実験として提案している口調だが、あかるは完全に萎縮していた。
「う~ん……なにが原因なんだろうなぁ」
頭をがりがりと掻きながら、マルは机の上に座り込んだ。あかるは、申し訳なさそうに唇を噛み締めた。
マルには悪気はない。彼女はあくまでも研究として、そしてその対象としてあかるに接しているだけで、責めているつもりは微塵もない。それは口調からも伝わってくる。けれど、あかるにしてみればそうではないようだった。
あかるは相変わらず、魔王の中に眠る能力を上手く扱えなかった。瞑想は、殆ど効果を見せず、能力の発動もやはり一ヶ月に一度が限度。調子が良いときで、二度。その程度しか扱えない。
「なんか、他に良い方法ないかなぁ」
マルは考え込んで、ぶつぶつと独りごちている。完全に自分の世界にのめり込んでいた。それを引き戻すように、紅説王が声をかけた。
「あかるは、元々能力者ではない。良くやってくれているよ」
落ち込んでいるあかるの肩に、そっと手をかけた。王とあかるの目が合って、二人はそのまま見つめ合った。
(なんだか良い雰囲気だな)
僕はにやにやしながら、そっとメモ帳を取り出す。
「でも、なにか方法があるはずですよ。あかるは、非能力者だし、彼女が言い張る異世界とやらには、能力者は存在しなかったらしいし。だからイメージがつかなくて出来ない。あるいは、やり辛いっていうのは分かるんですけど」
マルは顎に手を置いて、う~んと唸った。
「それだけじゃない。あかるの中には、大勢の能力者がいる。多ければ多いほど、能力の選別だって難しいだろう」
「影を見たんだっけ?」
王の言葉に触発されて、僕はあかるに尋ねた。あかるは、こくりと頷く。
「瞑想してるときに、誰かの影が意識の中で出てくると、気がついたら能力が発動してるんです。でも、その影は女の人だったり、男の人だったり、その時々で違くて」
「その度に発動する能力も違うんだよな?」
僕が確かめると、あかるは申し訳なさそうに頷いた。
そんなに気にする必要ないのに……。ここのところ、あかるは自分への不甲斐なさからか落ち込んでいるみたいだった。その姿を見るたびに、可哀想になってくる。