「皆はもう知っているな。この世界には、魔竜が存在することを」

 紅説王の言葉に、皆にぴりっとした緊張が走る。

「はい。此度の計画は、その魔竜を葬り去るためのものだと聞いてまいりました」

 答えたのはアイシャさんだ。上向きかげんに顔を上げると、長い黒髪が僅かに畳についた。やっぱり彼女は水柳、ルクゥだけでなく条国の言葉も解るんだ、と感心してしまう。

「その通りだ。だが、此度の計画について、諸君はどこまで聞いているかな?」

 紅説王は窺うように尋ねる。

 僕は、魔竜を滅ぼすためにルクゥ国で一番強いとされるヒナタ嬢を遣わすから、通訳と、記録を祖国に送るようにと言われていただけだったので、詳しい計画については何も知らない。

(ああ。メモ取りたいなぁ)

 魔竜についても計画についても、是非知りたいものの一つだった。それが今、語られているのだ。僕は、メモを取れない代わりに、頭をフル回転させた。一言一句、間違わないように憶えなくちゃ。

「ワシは、魂を集め、貴方様の開発なされた術で魔竜を操るから、護衛をしろと、そんなざっくりとした説明しかされてはおりませんな」

 先陣切って答えたのは燗海さんだった。

 護衛か。ということは、燗海さんは年に見合わない実力、もしくは重宝される能力を保持しているということになる。

 僕は得心しながら、静かに顎を引いた。

 それにしても、長年旅をしていただけのことはある。僕は少し条国の言葉は苦手なんだけど、燗海さんは発音も完璧だ。

「私も同じです。しかし、どうして魂を集める必要があるのですか?」

 アイシャさんはどことなく、詰問風に尋ねた。

(良くぞ訊いてくれた!)

 アイシャさんが質問しなければ、僕が尋ねていたところだ。

「魂を集め、その中に操相(そうそう)の呪符という物を入れるためだ。この呪符は相手を操ることが出来るものだ。それを、魔竜の体内に入れるために魂が必要なのだ」

「魂の中に呪符を入れ、魔竜に餌として食わそうということですな。一種の釣りのように」

 燗海さんが付け加えるように言うと、王は「そうだ」と頷いた。

 それを受けて、アイシャさんは、

「なるほど、承知いたしました」

 と納得したようだったけど、その表情はどことなく渋々といった感じがした。

 アイシャさんは不意に僕をちらりと見た。

(なんだ?)

 一瞬疑問が過ぎったけど、僕はわくわくしすぎてそれどころじゃない。早くペンを握りたい。

(……ん?)

 少し間が空いて、アイシャさんだけじゃなく、王や殿下まで僕をちらちらと見だした。殿下に至っては不機嫌な表情で、完全に僕をガン見している。

 僕もさすがに違和感を感じだしていた。僅かに首を捻る。

「――んんっ!」

 咳払いしたのは、陽空だった。僕の肩を軽く小突いて、耳元で囁いた。